今回、インタビューにご協力いただいた方は…
㈱ヤスダ安田 忠司さん
倉持青果倉持 剛さん
㈱よしたに商店吉渓 哲也さん・青木 衛さん
石塚ファームサービス石塚 誠一郎さんです。

たむら塾ホームページの第3回目は「白菜」について特集することにしました。
安田忠司さんと八千代町役場で待ち合わせをし、農家の倉持さん、資材を取り扱っているよしたに商店、農家の石塚さんの順にご紹介いただきました。
(※記事は2018年11月24日のインタビューをもとに作成しました。)

八千代の課題

安田さん
規模拡大ではなく、6次産業でルートシステムを確立し、直接販売できるようになれば、東京まで60キロメートルしかないので、八千代も変わりますね。直送できるので、消費者は安心して良いモノが得られ、生産者は安定した生産ができます。今は規模拡大しないと収益が上がらない。市場に投げると値段が分からず、大量にでると安くなって叩かれてしまう。そういった理由から後継者が育たないのと、農業が産業として成り立たないのです。

・・・はじめに倉持さん家へ・・・

育苗ハウス

安田さん
倉持さん家は畑作専門で30ヘクタールと農家の中でも規模が大きく、「育苗ハウス」で種を播いてから苗を育て、定植します。苗が育つ間は水をかけるなど毎日の管理が必要なので家の近くにないとできないです。

定植…苗床で育てた苗を畑に植え移すこと。

こちらの白菜は「菊錦55(※1)」という品種ですが、植えるのが間に合うよう時期をずらしているのです。一粒ずつ手作業で植えるので大変です。

迫力ある機械たち

安田さん
栽培規模が大きいので大型の農機具が必要です。収穫したものを段ボールやコンテナに入れて、トラックに載せるのにフォークリフトを使用しています。畑を耕すのも手作業だと20~30センチしか耕せませんが、この耕運機は白い部分が天地返しして1メートルくらい耕すことができます。また、軟らかいところでも通れるよう、接地面積の大きいタイヤになっています。農薬散布機は消毒薬を入れたタンクを積み、白い部分の先が5~6メートル伸び、シャワーのように噴射します。作付けするときに畝幅を決めて、この機械が通れるようにタイヤの幅も狭くなっているのです。

畝…植えるために土を盛り上げた場所のこと。

実習生の受け入れ

安田さん
倉持さんは5人の実習生を雇っています。全員タイ人で、今年で研修3年目になります。苗を育てる土を作っているところですね(写真撮影時)。自国で日本語を勉強してから来たので、流暢に話しますよ。

・・・次によしたに商店へ・・・

昭和50年に設立し、2代目として吉渓 哲也さんが代表取締役社長を務め、青木 衛さんは常務取締役を務め、茨城県農薬適正使用アドバイザーでもあります。

吉渓さん
我々の会社は種・肥料・農薬・段ボールなどの農業資材を販売している会社です。販売が目的ではあるのですが、商品をよりよく使ってもらえるよう、日々勉強しながらお客様にお伝えしていくのも仕事です。

県西の農業地域 ※2

吉渓さん
八千代町は、白菜メロン、鬼怒川の方に行きますとの産地ということで、県西地域の中でも農業が盛んな地域です。10月下旬~3月にかけて収穫する秋冬白菜と3月下旬~6月にかけて収穫される春白菜の作付け体制をとっています。

御社が設立された頃はどのように市場に出していたのですか?

吉渓さん
作ったものを組合として農協に出荷し、そこから全国へ運ばれていました。最近では個人で地方の卸売市場へもっていくのが多いです。また、任意の生産組合が町内にいくつもあり、現状は独自のルートで青果物を販売する契約栽培が多いですね。

毎日配達する段ボール数はどのくらいですか?

吉渓さん
一農家を何人でやっているかによります。1日分200~300ケース頼む方もいれば、1週間分1000ケースずつ頼む方もいます。実習生を多く雇っているところは1日で1000ケース出荷する生産者さんもいます。規模によって農家も買う場所が変わってきます。

実習生がいないと今の農業は厳しいですか?

吉渓さん
そうですね。労働力を確保していく人が残っていくでしょう。機械化はしていますが、やはり人でないとできないので、安定した雇用が欲しいですね。新規で就農した方は現在3名ほどいますが、失敗して撤退する方も多いです。最低でも売り先を確保しなければなりません。

収穫の機械は共用したりしますか?

吉渓さん
共用もありますが、規模が大きいので、自分が使いたいときに相手も使いたい、それなら買ったほうがいいですね。収穫の時期はずらしていますけど、共用の機械で野菜を収穫というのはまずないですね。以前は定植する機械があったのですが、実習生が入ってきてからは、手でやった方が速いので必要なくなりました。その代わり他の機械化はここ10年でかなり進みました。ちなみに、耕す機械は50馬力なら500万円というように、馬力×10万円で定価が大体わかります。

白菜農家の出作

吉渓さん
白菜をメインに栽培されている大規模農家さんに関しては、地元よりもつくば市で栽培している方が多いです。つくば市は生産芝の畑が多く、空いた畑で白菜を作っています。地元の肥料店が間に入って、まとまった敷地を貸し借りしているのです。八千代の白菜農家はかなりの割合で出作をしているのが特徴です。

出作…他の地域の田畑に出向いて耕作すること。

連携してオリジナルの種を推奨するとかは行っているのですか?

吉渓さん
何十年前はやっていましたが、現在はオリジナルの種を売るというのはやっておりません。数量をつくって販売するのが大変なのと、研究して抵抗性をつけたりとかしなければならないというのが次から次へと出てきます。今は種苗メーカーで新しいのを早めに紹介してもらって、それを農家に紹介しています。メロンでしたら、「筑波レッド」をオリジナルで育種して売っています。

・・・最後に石塚さん家へ・・・

安田さんと青木さんに石塚さん家にご案内していただきました。家の目の前の作業場で石塚さんのご家族と実習生3人が収穫した白菜を包装して段ボールに詰めていました。白菜の大きさによって3L2LLMと等級分けされていました。

・・・車で5分の白菜畑へ移動・・・
これは何という品種ですか?

石塚さん
秋理想」という早生で病気になりにくく、味の良い品種です。もう一つは「CR初笑」といい、晩生で寒さに非常に強いです。どちらも砲弾型で尻にボリュームがあります。8月に播いたもので、実もしっかりしてきたので収穫時です。

先ほど上が縛ってある白菜を見たのですが?

石塚さん
霜が降りるので中の葉が傷つかないよう、外の葉を紐で結束して守っています。冬を越さないものは縛る必要がありません。

収穫で使っている包丁は白菜用ですか?

石塚さんそうです。扱いやすいようにコンパクトになっていて刃が反っているのです。

栽培面積はどのくらいありますか?

石塚さん全部で四町歩ほどあります。
一町歩=1ヘクタール

白菜を食べる頻度とおすすめの料理を教えてください。

石塚さん
毎日食べています。秋冬白菜はみそ汁で食べるのが好きで、春白菜は漬物にしてよく食べます。

栽培で一番苦労することは何ですか?

石塚さん
一番は天候です。異常気象が当たり前のようになってきた中、秋冬白菜に於いては、8月に種子を播きますが、40度近い酷暑の中での苗作りは大変です。畑に植えてからも9月~10月は台風の季節なので大雨などが心配です。また、春白菜は種まきが11月~2月の寒い時期なので、種から芽が出て大きくなるまでの温度管理も大変です。12~13度以下の寒さを与えすぎると、少し暖かくなってきたときにとう立ちして花が咲いてしまいます。なので、最低温度を守らなければなりません。ある程度の苗に育つまで育苗ハウスで暖房します。

・・・石塚さん家へ戻る・・・
石塚さん
これから育苗するところです。
地下3センチくらいのところにボイラーにつながったホースをぐるぐる通して、お湯を流すことで暖めています。この上に種を播いた箱を並べるのです。まるで床暖房ですね。発芽の際は25度で45日経ったら少し温度を下げ、最終的には空間の温度を13度に設定します。白菜はとてもデリケートなのです。

今年の天候からして、成長速度はどうでしたか?

石塚さん
順調ではないですね。異常気象で、ここ最近では一番悪いです。9月の日照不足と長雨、そして台風24号の猛烈な風による被害で厳しい状況に置かれました。しかし、その後、天候が回復してからのポカポカ陽気で元に戻りつつあります。紐で縛る作型の白菜も今年は少し成長が遅いですが、大丈夫でしょう。

機械の通路

石塚さん
奥の赤いのが農薬散布機です。これで一気に20本の畝の白菜を消毒できます。畑を見て分かるように、機械が通れる道があります。

という薬をかけるのですか?

青木さん
今年の秋冬白菜のメインは「銅剤」です。銅には殺菌効果があります。
安田さん
白菜に農薬が残留しないように、使用時期に神経を使いながら、国で指定された安全な消毒を使うのです。

今年の病害虫被害はどうでしたか?

石塚さん
暖かいと病害虫被害は高いです。なので、今年は薬のお金がかかりましたね。温度が高いと「べと病(※3)」が一番なりやすいです。一つが病気になると、他にもうつってしまいます。

青木さん
最近は「黒斑細菌病(※4)」がきていて、それが厄介です。雨が多いとでる細菌性の病気の一種です。今年はそんなに降っていないからでていませんが、夏は台風とかが来ると葉が風で傷み、そこから細菌が入ってきてしまいます。

石塚さん
これから寒くなると「茎べと」というカビの病気がでてくるので、植えてから30日までは最低4回の消毒をして、病気にかかりにくい丈夫な根をつくることが大切です。

将来の展望を教えてください。

石塚さん
高齢化が進むと野菜作りのための労働力がなくなると思いますが、その分、外国からの実習生の手を借りてやっています。今は契約栽培で安定して供給するように、種を播く頃から契約しています。絶対数なので3割ほど余計に作らないといけません。歩留まりをどこまでもっていけるかですね。種を播く前から計画を立てて、売り先を決めるという方向になっています。

以上、八千代町より白菜産地インタビューでした。
石塚さんから大きくてみずみずしい白菜をいただきました。
ありがとうございました!!


※1 菊錦
「e-種や」販売サイトによると、「菊錦」は極晩抽で生理障害が少ない春まき白菜。最大の特長は極晩抽で抽苔の心配が極めて少なく、縁腐れ症にも強く、球内色の黄色も強く出ること。定植後約60日で収穫適期に達する。
葉色はやや濃緑で、草姿はやや立性、外葉数が少ないので、密植栽培ができる。球は砲弾形で、胴張り、尻張り良くボリュームがあり、1級2.5~3kg位で品質良好の品種である。適作型は暖地だと、11月下旬~1月上旬まき、3月初旬~4月上旬に収穫。中間地だと、12月上旬~1月上旬巻き、3月中旬~4月上旬に収穫。
参照:http://www.e-taneya.com/item/7869.html

※2 県西地域の農作物
「茨城をたべよう」のいばらきの農林水産物によると、
白菜…八千代町、結城市、古河市、坂東市、常総市、下妻市、筑西市、境町
メロンの産地…八千代町、下妻市、筑西市
梨…八千代町、下妻市、筑西市
が県西での産地である。
参照:https://www.ibaraki-shokusai.net/brand/

※3 べと病
「みんなの趣味の園芸」によると、初期症状は葉表に淡黄色の斑点ができ、やがて黄色から黄褐色になる。斑点が多くなると、葉の一部または全部が黄化して枯れ、株の生育が悪くなる。
参照:https://www.shuminoengei.jp

※4 黒斑細菌病
「長野県農業関係試験場」の農作物病害虫データベースによると、初期症状は、小さな水浸状の斑点ができ、拡大・融合して壊死斑点となる。病斑はややへこみ、淡褐色から黒褐色を呈し、周辺が黒色となる。進行すると葉に穴が開き、葉身部が腐敗し、葉脈だけを残す。さらに進行すると葉の大部分が腐敗し、枯死する。これにより定植後間もない時期に外葉が腐敗・枯死してしまうと、生育が進んでも不結球となる。
参照:https://www.agries-nagano.jp/pest/5289.html