今回、インタビューにご協力いただいた方は、
岩井農業協同組合 風見 晴夫さん
風見 隆司さん
坂東まちづくり株式会社 根本 克己さん です。
たむら塾ホームページ第7回目は「ネギ」について特集します。
(※この記事は2018年12月17日のインタビューをもとに作成しました。)
11時に根本さんと坂東市観光交流センター「秀緑(※1)」で待ち合わせをし、岩井農業協同組合にご案内していただき、代表理事組合長の風見晴夫さんにお話を伺いました。
坂東市の農業の歴史
風見晴夫さん》坂東市は、平成17年に旧岩井市と旧猿島町が合併し誕生した地域で、私の住む、旧岩井市管内は、昔は露地トマトが日本一の生産量を誇っていました。その後、ハウス栽培に切り替わり、平成元年には、茨城県銘柄産地に指定されました。しかし、昭和60年頃から生産者が減りはじめ、トマトの生産量も減ってしまいました。そういう中で、トマトより稼げるものは何かないか?と試行錯誤を重ね、徐々にネギへの品目転換が進みました。その背景には、トマトやキュウリなどは、収穫適期が短い作物で、待ったなしで収穫しないといけませんが、ネギは比較的収穫適期が長く、2~3日ほっといてもダメになりません。農作業のやりくりや農休日が自由にとれるなどの利点もあり、この地域は自然にトマトからネギへの移行がすすんだものと思われます。
今日では、夏ネギは、市場の価格形成の核となる産地になってきました。また、ネギの生産量は平成に入ってからも伸びております。
◆坂東市は、ネギを年間でどのくらい出荷しているのですか?
年間約200万ケース(約1万トン)の白ネギを出荷しています。このうち約165万ケースを5~8月の初夏から夏の時期に出荷しています。夏ネギの生産量は、日本一です。出荷先は、以前から関東地区の市場を中心に出荷してきましたが、私が組合長になって3年前から関西方面にも販路を拡大し売り始めました。
しかし、関西地区は、青ネギが主流で、食文化の違いからも白ネギはあまり受け入れられず、最初は200万円程度の売り上げでしたが、今では、白髪ネギなどの食べ方など食の多様化がすすみ、約1億2千万円と60倍以上に伸びています。
◆新しくネギを作るにあたり、他の地域へ研修に行かれたのですか?
行きませんでした。この地域は生産者が先祖から高い技術を持っています。気候条件や土壌条件にも恵まれ、技術力を磨きながら稼げるモノを作るように切り替えていったのです。
◆自家用の夏ネギはあったのですか?
私が小さいころから一年中畑の隅にネギはありました。この地域は夏ネギの10アールあたりの反収が非常に高く150万円~250万円にもなります。他の地域では、ネギは儲からないというイメージが強く、このことを話しても信じてもらえないほどです。それほどこの地域の農家はネギに対して執着心を持っているということです。
◆ネギ、トマトの前はどんな作物を作っていたのですか?
葉生姜、ほうれん草、葉タバコ、コンニャクなどを作っていました。コンニャクの収量が上がらなくなった頃に、野菜を栽培しないと生活が成り立たないということで、昭和43年あたりから葉生姜を入れたり試行錯誤していました。
◆種苗屋は戦後からあったのですか?
管内には、いつくか種苗屋さんがあり、私は、若いころ内田種苗店の内田社長に指導をしていただき、大変お世話になりました。今もお世話になっていますが、この社長は先見の明があり、技術はもちろん、農薬や病害の対処の仕方も速く信頼できる方です。ここまで産地が大きくなることができたのも内田社長がいたからこそと感謝しております。このように、我々生産者は種苗屋さん方に育てていただいたという認識があります。
◆この地域ではどんなネギの品種を栽培していますか?
4月下旬から6月末まで「春扇(はるおうぎ)」という品種をメインに使っています。とても柔らかいネギで、7月から9月までは「黒昇系」という首元のしっかりしたネギ、10月から12月は「秋冬ネギ」と「鍋ネギ」です。特に、鍋ネギは下仁田ネギと長ネギを掛け合わせたネギで、すごくやわらかくて鍋に最適です。3月からは4月中旬までは「春ネギ」と、1年中その季節に適した品種を選んで栽培しています。夏まで生産する。秋冬まで生産する。と、生産者個々に計画を立てて生産しています。最近は、冬ネギも生産量が増えてきましたので、夏ネギ同様に日本一をめざしたいと考えています。また、坂東市のネギは、量だけでなく品質も確かで、食の安全についても定期的な検査を継続実施しており、自信をもってお届けさせていただいています。
坂東名物!ねぎスキと祝い鍋
根本さん》ネギは脇役が多いので主食にできないかということで、「ねぎスキ」を考えたのです。鍋の真ん中に鴨肉などの肉をいれて、肉の周りに約3センチに切ったネギを縦に並べます。肉汁が下から立ち上がるとネギの穴から沸々出てくるので視覚でも楽しめますし、味も絶品です。
他にも「祝い鍋」というのが生み出されました。坂東市は旧岩井市と旧猿島町が合併した地域で、この岩井と祝いをかけて祝い鍋と命名されました。ネギ・レタス・鶏肉・赤飯入り肉団子が入ったヘルシーな料理です。
次に根本さんに風見さんの家へ案内していただき、ご子息の風見隆司さんにお話を伺いました。
風見隆司さん
風見さん家は、平成9年5月立ち上げられた農業法人です。風見家の長男である隆司さんは大学卒業後にすぐ農業を始め、今年で農家歴14年目になります。現在、米・ネギ・レタスを栽培しています。
◆なぜ若くして農業に入られたのですか?
私は、元々トラックのドライバーをやろうと思っていました。学生の頃からトラック運転手のアルバイトをしていたくらい運転が好きでしたが、ずっとやっていくのは厳しいと言われ、父親と共に農業をやることにしました。他に勤めて辞めたりするくらいなら父親と喧嘩しながら仕事をしたほうがいいと思いました。いずれ継ぐなら早いか遅いかだけですから。
◆農業を始める前と今で何か気持ちは変わりましたか?
勤める側のほうがいいなと思うこともありますが、今は少しでもいいものを作ろうという気持ちでやっています。
トラクターなど大きい機械類がたくさんあり、元々車やバイクが好きなので、他の人と違ったものに乗れることは魅力です。
あふれる農作機械
◆機械は何台持っているんですか?
トラクターだけで10台あります。コンバイン(※2)と田植え機が3台ずつで、消毒用のラジコンヘリもあります。ラジコンヘリは操作中、電波障害などが起き、誤作動をおこし地面に落下して壊れてしまいます。車は危なくなったら止まればいいですが、浮いているものに関してはどうしようもできないので、ラジコンヘリの操作はどうしても慎重になりますね。ドローンの免許も持っていますが、ラジコンヘリのほうが1回の飛行で4~5倍の面積ができ、重宝してます。
このトラクターの中でメインで動かしているのは1台で、残りは主に春の時期に使います。機械は、ここに置ききれないので、他に置く場所を借りています。お客様の畑を機械で耕したりするのですが、土壌病害などを持ち込むと一気に広がってしまう恐れがあるので、畑を1か所やるたびに必ず機械を洗浄しています。
◆夏の収穫時期は害虫の被害が多いと思いますが、農薬はどのくらいの頻度で使用しているのですか?
夏場は5~7日に1回程度、農薬の使用基準や規定を守りながらやっています。畑が何か所にもなるので、周る順番や散布する時間などやりくりが大変です。また、薬剤は気温が高いと気化するのが速くなるので、夏場は、早朝4時半頃から消毒作業をはじめています。
活気のある作業場
従業員は4人雇っており、そのうち3人は中国人の実習生です。田んぼの作業で忙しくなる春と秋は季節雇用を入れて仕事をまわしています。
包丁で不要な葉を切ったり、エアーでネギの周りの皮を落とすなど丁寧に調整を行い、箱詰めをしています。
ネギの外葉など不要となるものが軽トラック7台分にもなるので、ある程度は畑で外葉を落としてから作業場に持っていき、4~5台に抑えるようにしています。
規格基準で、等級ごとに定数が決まっています。1箱に2Lは30本、Lは36本、Mは45本、Sは55本となります。1反歩(10アール)の畑に植わっている本数はほとんど誤差がないので如何に太いものを作るかがポイントです。今年(2018年)は太物の2Lの発生が多かったので600~700ケース出ています。前年(2017年)の圃場だとLとMが多かったので1反歩400ケースくらいしか出ませんでした。
◆箱の青い線はなんですか?
白身の長さの基準となる線です。この2本線の間に白身があるとこの太さですとLの等級になります。この線以上に白身がある場合はALの等級となります。
車で3分の畑へ移動…
立派なネギ
◆これは何という品種ですか?
秋冬ネギで品種は「関羽(かんう)」です。
◆1日の出荷量は?
平均180~200ケースです。この時期は、ネギを1回で収穫したものを2日に分けて出荷しています。夏は、暑さの影響で品質低下が速くなりますので、1回の収穫量を少なくして1日で出荷するようにしています。
◆ネギの栽培面積はどれくらいありますか?
年間を通して2町歩(2ヘクタール)はあります。この畑は1列が約70mあります。この機械を使って30~40分で収穫します。
◆定植はどのくらい育ててから行うのですか?
播種する時期で異なりますが、これで定植できるまでに約2か月ほどかかっています。定植する前に葉を切り根回りを良くするなど、適度な太さで丈夫な苗に仕立てる「苗作り」が大切です。
◆土寄せはどのくらいの深さを掘るのですか?
専用の機械で、約30センチほど掘ります。収穫できるまで平均3回土寄せを行い白身の長さを確保します。冬場は27センチの白身が必要だったりと出荷基準が決められています。ネギの伸びや太りをみながらの作業となりますので、この土寄せのタイミングがとても重要です。
◆良いネギをつくるためにこだわっていることは何ですか?
露地栽培なので毎年の天候によって出来が違います。私の家は田んぼの作業が1か月間も入るので、手入れが行き届いていないのが現状です。
去年は細いネギが多く、収量が思ったよりも少ない結果でしたので、今年は、定植時期を変えてみようという勉強の繰り返しです。こだわりといっても空いた時間にネギの生育状況を確認して少し肥料を追肥したり、化成肥料でも有機質成分の多い肥料を使うといったくらいです。ネギに関しては自分が農業を始めた時は家では栽培していませんでした。農家に入る条件として、ネギは臭いからやらないと父親に言っていました。当時は若かったので服に臭いがつくのが嫌でしたが、相場がいいので栽培することを決心しました。
◆ネギはどのくらいの頻度で食べていますか?
1日何本も食べています。畑で白身の真ん中を割ってかじってみて甘かったら友達にあげたりもしています。夏場でも品種にあった時期に収穫したものは甘いんです。薬味にしても甘い方が水分も含んでいるので美味しいですね。
◆どういった料理でネギ食べられますか?
網で焼いて塩と醤油をかけて食べたり、ラー油とニンニクで和えたりとおつまみとして食べるのが多いです。鍋とかに入ってるネギはあまり食べません。料理として出されると家で食べられるからいいかなと食べなくなってしまいます。
◆今後の目標を教えてください。
先ずは、仕事内容の現状維持です。また、今作っている作物をいかに効率よく作っていくか極めていきたいと思います。そして、今あるものの生産コストを下げてどのような期間でやっていけるかなども研究していきたいと考えています。
以上、坂東市よりネギ生産者インタビューでした。
沢山のネギをいただきました。
風見さん、根本さん、ありがとうございました。
※1 坂東市観光交流センター秀緑
アルパカ・ポニー・ウサギとのふれあい体験や木工・ろくろ体験、ハンドメイド講座などを行っている。また、「旧大塚酒造店舗兼主屋」は有形文化財に登録されており、お土産売り場として坂東市の名産品やオリジナル工芸品の販売をしている。参照:http://shuroku.com/
※2 コンバイン
穀物の刈り取りと脱穀を行う機械で、圃場を進行しながら刈取りと同時に脱穀選別を一貫して完了できる。
参照:https://kotobank.jp/word/コンバイン-67505