茹で蛸専門

仲卸業者インタビュー


今回、インタビューに応じて頂いた仲卸業者の方は、

    ()大政(だいまさ)本店の小槻(おつき) 義夫(よしお)さんです。


   ()大政本店 3代目          
       小槻 義夫さん 

大政本店は、1922(大正11)創業以来、日本橋魚河岸、築地市場で、茹で(たこ)の加工・販売をしてきました。        
築地市場開業時には、20社ほどあった「茹で蛸」を加工販売する仲卸も現在は大政のみとなりましたが、茹で蛸の味を継承するべく、これからも築地で生業を続けていきます。
ぜひ大政の茹で蛸をご賞味ください!

大政のセールスポイント

大政の強みは何ですか。

自社の加工場で製造をしています。ヒノキの樽で塩揉みをして、丁寧に茹であげています。大きいもので1520分、小さいもので約10分くらいですが、モノによって違うので触りながら茹で加減を決めています。塩茹ですることで蛸の旨みを逃すことなく余分な水分を抜くことによって、しまりが良くなり食感の良い茹で蛸に仕上がります。また、食品添加物・保存料・着色料などは一切使用していませんので、素材を生かした本物の味をお楽しみいただけます。

扱っている蛸の種類と漁法について教えてください。

扱う真蛸は明石・下津井・モーリタニアに限定しています。明石は底引き網漁、下津井とモーリタニアは蛸壺漁で獲れた蛸です。釣りだと針で蛸が傷み、品質が悪くなってしまいますので、原料からもこだわっています。

仲卸の苦労

私たちが普段見る蛸とは色が違いますね。

現状、市場で出回っているのは「蒸し蛸」が主体になっています。蛸1㎏を大政が茹でると約0.5㎏になりますが、蒸すと約0.8㎏になります。蒸すほうが水分が入るので重くなりますし、コストも安いです。また、蒸し蛸は鮮度保持をするために亜硝酸塩・ソルビン酸等の食品添加物を使っており、発色作用もあるので均等にピンク色になります。見た目もそのほうが美味しく見えますよね。それで、蒸し蛸が出回っているのです。

仕事で苦労することは何ですか。

「大政の茹で蛸」と「市販の蒸し蛸」を食べ比べするとモノの良さが伝えられますが、消費者は見ためで決めてしまいます。それをどういう風に伝えていくかが問題ですね。茹で蛸と蒸し蛸で23割値段が違います。しかし、価格の差は持って生まれたものなので、価格を下げることで品質を悪くしても大政の良さが無くなってしまいます。そこが一番苦労します。本当に理解していただける人にしかお客さんになってもらえないですが、それを変えていくつもりはないですし、「この茹で蛸は良い!」と言ってくれるお店との付き合いの中で、茹で蛸の価値を見出して、質にこだわった形で生き残っていきます。

仲卸の1

主な一日のスケジュールを教えてください。

午前23時に起床し、蛸を築地の加工場で茹でて、市場内店舗に持っていきます。そこで販売して午前10時に閉店します。1日で約100㎏の蛸を取り扱っています。そのあとは事務所作業や発注、最近は蛸以外の商品も携わるようになりました。

 蛸の性別と味  ※1

オスとメスはどのように見分けているのですか。

蛸の目を自分に向けた場合、オスは左から3番目に白っぽい足があります。これが生殖器です。蛸は産卵期が夏と冬の2回あり、夏に孵った蛸が夏に産卵するというように、サイクルが決まっています。大体1年で産卵して死んでしまいます。

オスとメスで味に違いはありますか。

真蛸の場合とくに味に違いはありません。北海の蛸はメスのほうが小さくて柔らかいので食べやすいですね。産卵後の蛸は栄養素を持っていないのでおすすめはしません。

おすすめの料理はなんですか。

うちのは完成品なので、あとは切り方次第ですね。このまま食べても美味しいですが、今の時期()は、カルパッチョがおすすめです。

大政の物流

仕入れの流れについて教えてください。

普通の仲卸は、卸売業者(荷受け)が生産者から買ったモノをセリで仲卸業者が選択して買うという形です。大政は仲卸業と製造業のどちらも担っています。岡山県の下津井の蛸は、漁師の方から直接購入し、加工しています。モーリタニアの蛸は卸売業者(荷受け)を通して買っています。

蛸の消費量  ※2

蛸の消費量はどうなっていますか。

基本的にアフリカの蛸が主流ですので、アフリカの獲れ高によって変わります。輸入量は45万トンあるかないかです。北海や瀬戸内まわりが一番獲れるので、そこの消費量は多いと思います。スーパーにも特売商品で並んでいたりしますが、日本全体の消費量は落ちてきていますね。うちはお客様が決まっていますので変わらないです。

関東と関西で需要など違いはありますか。

関西のほうが獲ったらすぐ調理して食べる習慣がありますので、関西のほうが需要があると思います。「蒸し蛸」は関西で始まったのが関東に来たので、関東の人が関西の蛸を食べると柔らかいと感じると思います。逆にうちの蛸を関西の方が食べたら硬いと思われるかもしれないですね。

仲卸の新たな役目

今後の目標について教えてください。

10月から築地市場が移転しますが、物流の拠点としての豊洲というだけで、築地は様変わりする必要はないと思います。本来の築地の機能である、良いモノを紹介して売る。さらに専門的な施設の開発をし、「日本の食はすごい」という形を作っていくのが役割だと思います。低成長でいいから生産者が安心して暮らせる国を作り上げていくべきだと思います。「この蛸は美味しいですよ」と食材を紹介して、仲卸の価値・意味を発信していかないと仲卸の存在意義がなくなってしまいます。自分たちが何をやりたいのか、色々考えてやっていくようにシフトしていかないとこの先続きませんし、自分たちのステータスがなくなって、結局「仲卸なんていらない」と言われてしまいます。コスト管理の中の一つの存在に過ぎない、そうではないと存在感を示す一つの例になると思います。そのためにも、産地とのコミュニケーションをしっかりとっていくのが大切だと思っています。


※1「動物おもしろ雑学集」によると、タコは吸盤でもオスメスを見分けることができる。大きさがバラバラならオスで、揃っていればメスである。また、オスのタコは右第三腕が交接器になっており、その足先には吸盤がついていない。吸盤のない足が1本あれば、そのタコはオスということになる。

(参照:https://zooing.honpo21.net/archives/457

<タコ消費量ランキング(2016)

順位 都道府県 消費量
1 香川県 1,001g
2 大阪府 1,000g
3 奈良県 992g
4 北海道 910g
5 京都府 902g

2「都道府県別統計とランキングにみる県民性」によれば、タコの消費量1位は香川県、それに大阪、奈良、北海道、京都と続く。
(参照:https://todo-ran.com/t/kiji/11131)